赤線玉の井 ぬけられます(1974)

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tamanoi

先日、シネマヴェーラ渋谷で「神代辰巳の世界 没後20年メモリアル特集」として上映された『赤線玉の井 ぬけられます』を鑑賞してきた。

本作は、売春防止法が施行される昭和33年の元旦、玉の井にある「小福屋」という娼家での一日を描いた群像劇。
話は、おもに三人の売春婦を軸に進んで行く。

 

シマ子(宮下順子)
刺青をした男に弱く、ヤクザの志波(蟹江敬三)というヒモがいる。シマ子の玉代で毎日博打をしているどうしようもない男だが、典型的なダメ男に尽くすタイプのシマ子は離れることができない。
工面したお金を賭場に届けに行くも志波に相手にされず、廊下で思わず自慰にふけってしまう。

同僚から、志波が別の女と歩いていたことを告げられ茫然自失となる。錯乱状態で志波に問い質し、ヒロポンをやめさせようと足で注射器を踏みつけて血まみれになるシーンは圧巻。
今すぐ抱いてくれなきゃ病院には行かないと言い、恍惚の表情を浮かべながら抱かれるシマ子。

全体的に生々しく、「生」と「性」が零れ落ちそうな情感的な描写には終始圧倒させられた。

 

公子(芹明香)
二年間勤めた小福を身請けによって離れるシーンから始まる。
しかし旦那とは体の相性が合わず、離れ間際に「私、なんだかここに戻ってきそうな気がする」とつぶやいたことが現実となる。
女将さんに嗜められながらも、「やっぱり店はいいわぁ」と言いながら客を取ってオーガズムに達してしまう。しかし旦那は公子を連れ戻しには来なかった。

ここで公子の小福での二年間の回想シーンを挟む。
子猫のようにビクビク震えながら、最後は「動いちゃいや!」と泣き叫び懇願する壮絶な処女喪失。
当時と打って変わって、嬉々とした顔で絶頂を迎える公子に赤線時代の売春婦のリアルを垣間見たような気がした。

 

直子(丘奈保美)
木の実ナナのような顔立ちの、さばさばした直子。
以前、繁子(中島葵)が正月に作った1日26人の記録を抜かんとばかりに客を上げ続ける。
底抜けに明るく、“接客”をゲームのように楽しむ本当に憎めないキャラクター。

小福屋のおやじが教えてくれた股火鉢を、最初はインチキだと言って拒むが二回戦の客に当たってしまい結局試す。
以後、この股火鉢のシーンが面白可笑しく場内の笑いを取っていたのが印象的。

最後は精も根も尽き果ててボロボロになりながら、閉店間際(閉店後か?)に取ろうとした客に「髪がもじゃもじゃ、目がギョロギョロのお化けみたい」と手痛いダメ出しをくらいそこで最高潮の笑いが起こる。

 

「花嫁人形」「リンゴ追分」など随所に効果的な歌が使われ、そのシーンの特徴を印象づけることに成功している。これは見事。
そして、最も効果的だったのが滝田ゆうの挿絵。これがチャプターごとに入ってきて強烈な余韻を残した。

滝田ゆうとは、「寺島町奇譚」で知られる漫画家で、同作は幼少期を玉の井で過ごした自身の自伝的作品。本作では監修を務めている。

赤線をテーマにした映画と言えば溝口健二監督の「赤線地帯」があるが、あちらは売春婦の陰にスポットを当てたどちらかと言うと重い話だった。
それに引き換え、本作は登場人物を活き活きと描いていて、随所に笑いの要素も散りばめたりとまったく悲壮感を感じさせない作品。

ややもすればディープかつダークな内容になりがちな(そのほうがメッセージ性があるし本来伝えないといけないものでもあるが)赤線をテーマにして、ウィットに富んだ作品に仕上げてしまうあたりが神代マジックなのでしょうかね。

いやはや、いい映画でした。5段階なら★★★★☆

 

『赤線玉の井 ぬけられます』
日活ロマンポルノ 1974年公開

監督:神代辰巳
監修:滝田ゆう

キャスト
宮下順子:シマ子
蟹江敬三:志波
丘奈保美:直子
芹明香:公子
吉野あい:あい子
中島葵:繁子
絵沢萠子:小福のおかみさん
殿山泰司:小福のおやじ

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