海沿いを歩いた。
暑さも寒さも感じない、最高のコンディションだった。
ただひたすらにオーシャンビューを味わいながら、歩みを進めた。
そして、ベニスにたどり着いた。
コイツは一体何を言い出すんだと思ったかもしれないが、確かに「ベニス」なのだ。
石積みの岸とエメラルドグリーンの海が紡ぎ出す景観美を『北木のベニス』と称してPRしている。
ベニスとはもちろん、イタリアが誇る運河都市、「水の都」と言われるベネチアのことだ。
どうだろう。これがベニスである。
確かに美しい景観だが、、いくらなんでも盛りすぎじゃないだろうか。。
廃センスな廃屋にテンションが上がる。
「さく岩機」の文字と役目を終えてから相当の年月が経っているであろう商店がこの島の歴史を雄弁に物語っていた。
かつては石材産業で働く男たちで殷賑を際めていたのだろう。
食堂の廃墟が盛者必衰の理をあらわしまくっていた。
そして、桂林にたどり着いた。
コイツは一体何を言い出すんだと思ったかもしれないが、確かに「桂林」なのだ。
桂林とはもちろん世界遺産にもなっている中国の景勝地。
山と川が編みだす景観がまるで水墨画のような美しさを醸し出す、世界に誇る名勝である。
その桂林と張り合おうとしているのが北木島のこちらの風景である。
なるほど、本家には及ばないが、ベニス同様ここも存外悪くない。
もちろんベニスも桂林も採石場の跡地である。
人の手と自然が融合した北木島ならではの風景と言えるだろう。
丁場(採石場)や石材店の跡が点在する島内を歩くと、晩年は完全に需給バランスが崩れていたのであろうことがよくわかる。
そう思わせるに有り余るほど、行き場を失った石材がゴロゴロ転がっていた。
そんな夢のあとを横目に、先へ先へと歩いた。
ようやく船着き場がある豊浦の集落まで来た。
思ったより見どころが多く、島の広さも手伝って予定はとうに狂っていた。
(まぁしゃーないな…)
豊浦の集落
まずは集落の入口に立つひと際目につく「豊浦公会堂」。
あの「瀬戸内少年野球団」のロケにも使われた歴史ある建物である。
そのまま集落の奥部を目指し侵攻を始める。
すると、大正時代に建てられた北木島郵便局と対面することになる。
思わず息を呑む瞬間である。
驚くことなかれ、なんと今でも現役の郵便局なのである。
かれこれ100年もの間、静かに時を刻んできた建物。
中に入れなかったのが唯一の心残りだった。
豊浦の集落の外れに、「K’s LABO」なるカフェ、ミュージアム、レンタサイクルなどが全部入りした観光施設があった。
シンボルの花崗岩でできた恐竜は、もちろん北木産である。
他に店もなさそうだったので、とりあえずここで少し遅いお昼ご飯にした。
このあと、島の東側にある大浦まで行く予定だった。
ここまでの所要時間と残りの距離を考えると、徒歩で向かうのは極めて困難に思われた。
何より、歩き疲れてHPがほとんど残っていなかった。
仕方ない…。
禁じ手を繰り出し、首尾よく一気にワープすることに成功した。
そんなわけで、最後に大浦の集落を歩いて冒険の書を完成させるとしよう。
(3ページ目へ続く)
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