昨年、京街道沿いの色街、京都の「橋本遊郭」を6年半ぶりに訪れた。
実は関西に移ってからは一度も足を運んでおらず、現状確認と言う意味ではやや期間が空きすぎてしまった感も否めなかった。
橋本遊郭の現状
2020年夏頃に取り壊された、元検番の「天寿荘」跡地。
駅の真ん前で人を寄せ付けないような威容を放っていたが、呆気なく無に帰してしまった。
廓内を歩くとところどころ更地が目立つように。
旧辻よし楼があった場所。
二軒隣、タイル張りの防火水槽があった旧榮楼の建物も真新しい住宅に変わっていた。
当時、妓楼の残存具合に衝撃を受けた橋本だが、やはり時間の流れには抗えない。
だが、消える建物があれば思いがけず延命される建物もある。
旧三枡楼
2020年10月、京街道沿いにある一軒の妓楼が旅館に生まれ変わった。
かつて「三枡楼」と言う屋号だった建物だ。
旅館の名は「橋本の香」。
再生させたのは満州出身で日本に帰化した政倉莉佳さん。
6月に漢方エステサロンを開業し、10月に旅館業の許可を得ての運びとなった。
旧三枡楼が建てられたのは昭和10(1935)年。築90年近い建物だ。
取り壊されて駐車場になりそうだったところを「こんな素晴らしい建物をつぶしてはもったいない」と購入に踏み切ったのだと言う。
ただ、長いこと空き家だったせいで、買い取った当時は雨漏りやらで酷い状態。
そのまま使えるものは使うことにしたが、再生まではやはり苦労も多かったと仰っていたのが印象的だった。
旅館は素泊まり4,500~5,500円となっており、500円で見学だけも可能。
宿泊のみだと、旅程的に難しかったりそもそも家から近すぎたりとニーズから零れ落ちる人が出てくるのでよい試みだと思う。
玄関付近だけでも、いかにこの建物が贅を尽くしたものであるかがよくわかる。
館内を見る《1階》
正面の低い入口は、客に頭を下げながら対面できるようにしたもの。
なるほど、小さいことひとつひとつにもきちんと意味があるのが興味深い。
正面の部屋は二間続きになっている。
位置的に帳場だったのではないだろうか。
館内には、これでもかと言うほどステンドグラスが設えられている。
洗濯機置場の出窓には、アールのついたガラスが嵌められていた。
中庭に面した廊下。
中庭の地面にもタイル。
狂気を孕んだ美しさにため息しか出てこない。
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