海峡の町、下関にあった「新地遊郭」。
その名残を求めてかつてのメインストリートへと足を踏み入れた。
その昔、下関には遊郭が四つあった。
うちひとつは、戦に敗れた平家の女官が遊女に身を落としたのが発祥とされる、歴史的に極めて重要なエピソードがある。
だが、今日は歴史についてはあまり触れず、あくまで町並みの紹介に注力したいと思う。それぐらい素晴らしかったからだ。
一応付け加えておくと、四ヵ所のうち往時の名残をよくとどめているのはここ新地遊郭のみである。
『全国遊廓案内』によれば、貸座敷は四十三軒、娼妓は約三百人とかなりの規模だったようだ。
対して赤線時代はどうかと言うと、七十五軒に二百十名(『全国女性街ガイド』)
よほど賑わったのだろう。軒数が大幅に増えている。
核心に触れる
現在の新地遊郭は、下町然とした風景の中に古い木造家屋がぽつぽつと残る、そんな町並みとなっている。
目抜き通りの突き当たりが小高い丘のようになっており、進むにつれて風景に変化が見られるのが面白い。これについては後ほど。
駅からそう離れていない場所にも関わらず、再開発とは無縁そうな雰囲気を醸している。
空き地や駐車場は、おそらく寿命が尽きて壊された建物の跡地であろう。
そして奴が現れた。
最も有名な、ラスボス級の遺構。
まだ残っていた。
一体何をどうしたらこんな構造物が出来上がるのか。
建築の概念などとうに吹き飛んでいる。カオスすぎて何がなんだかよくわからない。
ピンクと水色が調和した、危ういほどの妖しさをまとった玄関まわりの意匠。
このドアの向こうで紡がれた、幾多の物語を思う。
ずっと見たかった建物を目の前にしたとき。
色街めぐりをする者にとって、やはり一番喜びを感じるのがこの瞬間ではないだろうか。
何物にも代えがたい達成感。
おそらく常人にはまったく理解されない類の感情であろう。
「花月」と書かれた屋号。
よく残っていてくれたと、心からの賛辞を贈りたい。
いつまでこの姿をとどめてくれるだろうか。
そしてもう一軒。こちらも『赤跡2』の頃から空き家のようなので一体何年放置されているのか見当もつかない奇跡の遺構である。
この、胸の底が熱を帯びてくるような情緒的な景観をあと何年見ることができるだろうか。
全国的に見ても極めてレベルが高く、異彩を放つ下関新地遊郭。
実は、もうひとつ見どころが残っている。
最後に、“崖下のラビラント”に迷い込んでみようと思う。
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コメント
むぎ焼酎 二階堂のCM「刻の迷路」に出てきた場所ですね。お酒は全く飲めませんが、CMは二階堂、ポスターは「いいちこ」が好きです。二階堂はともかく、いいちこの撮影場所って、どうやって探しているのでしょうね?
二階堂のCMで新地町が出ていたとは・・驚きでした!調べたら1998年のようですね。
まさに「刻の迷路」と呼べる風景。このキャッチフレーズはなるほどと思わず唸りました。