京都・五条楽園。1958年(昭和33年)まで七条新地と呼ばれていたその場所は、昭和30年発行の色街散策のバイブルとも言える「よるの女性街・全国案内版」には以下のように記されている。
通称を橋下といい五条大橋から七条までの西側の川沿い。168軒に750名がいる。疎水をはさみ東と西に分れているが平均して安い。
昨年までは写真をショーウィンドウのように飾っていたが現在は“照らし”といって蛍光燈のスポットを当てた陳列棚に女が並んでいて、のれん越しに顔が見える。遊びは300円、泊りは1000円位。家は大きいが風呂はない。検診は東側が火曜、西側が月曜。
摘発で消えた楽園
引き続き高瀬川の西側を散策。ピンクのタイルが可愛らしい。
同書で「疎水」と描写されているのはおそらく高瀬川のことであろう。
これはすごい。ザ・カフェー建築って感じ。
さすがに二階の窓は曲線じゃないんですね。惜しいなぁ。
さて、そろそろ『事件』のことについて触れておこうと思う。
ちょんの間街として長らく隆盛を極めた五条楽園であったが、今から5年前。2010年の10月、11月の二度に渡って京都府警の手入れを受けることになる。
統括や経営者が逮捕されたことでお茶屋も置屋も休業を余儀なくされ、「本業」のほうの営業も再開できないまま翌年3月、とうとうお茶屋組合も解散してしまったのだ。
これによって、約50年間続いてきた花街の歴史にも完全に終止符が打たれた。
これまた三本の指に入るであろう「ザ・タイル張り物件」の新みかさ。
市松模様のタイルで完全武装していて付け入る隙がまったくありません。
たぶんお茶屋と書かれていたであろう箇所がテープで隠されているのが摘発の爪痕を物語るようで実に生々しい。
一見して旅館のような名前と外観の「第二西菊」。
緑が特徴的。こういう色彩はあまり見かけないので珍しい。
左側にはボルダリングしたくなるような壁を持つ謎の建物。
お茶屋には見えないけど。なんなんですかね、これ。
第二西菊の正面には豆タイルの円柱と謎の置き石が鎮座した元お茶屋。
70年代に全国の赤線跡を撮影した写真集、『連夜の街』にも掲載されている物件で、それを見ると当時はお茶屋の鑑札があったよう。現在ではすでに外されていてお目にかかることはできない。
余談だが、1ページ目の最初に掲載した、高瀬川の橋の写真。以前はここに「五条楽園」と書かれたアーチのような看板があったが摘発後に撤去されてしまったそうである。
元お茶屋の建物も、廃業して取り壊されたり徐々に数を減らしている。
現役時代のことはつゆほども知らないので、筆者にとっては目の前にある壊滅した色街だけが事実でありすべてである。
これまで見てきたとおり、これほど立派な建物が数多く残ってるのに放置されているのは本当にもったいない。
表向きはお茶屋街で組合もあった五条楽園には、ちゃんと歌舞練場もある。
が、もはや役目を終えてしまった建物である。中には舞台もあるようだが、今では何に使われているのだろうか。
さて、五条楽園の中で今もっとも有名な遺構と言えばこの旅館「平岩」である。
見ての通り元妓楼。なにゆえ有名かと言えば、外国人観光客にすこぶる人気なのだ。
そりゃ、こんな純和風な旅館があったら否応なしに泊まってみたくなるでしょう。
京都駅前の画一的なホテルに泊まるよりはるかに情緒的な上に安いんだから。
日本人だって海外に行って現地の伝統的建築物な宿があったら泊まりたいと思うわけで。
そんなこんなで早朝の五条楽園散策、非常に満喫した時間だった。
河原町五条交差点より。
ここからバスに乗って次なる目的へ向かった。
そこには確かに『楽園』があった。
4年という歳月を経て、着実に一歩一歩消滅へと向かっている事実だけが厳然として目の前に横たわっていた。
色街の歴史は潰えたが、そこで起きた数々のドラマや人々の記憶は永遠に消えることはないであろう。
[訪問日:2014年7月19日]
2018年、五条楽園を再訪しました。
コメント
はじめまして、赤線めぐりを趣味とする20代、そしてタイルファンです。笑
一度行ったきりの五条楽園ですが、建物も残っているようで安心しました。
特に「ザ・カフェー建築」と記載のあるお宅は、数あるカフェー建築が消えていく中、原型を保ったまま大事に住まわれているようで大好きです。
またブログ、遊びに来させてください。
nicoさん
こんにちは。コメントありがとうございます。
カフェー建築は全国的に見ても数が減っていますよね。大事にされているお宅を見ると愛着を感じて嬉しくなります。
つたない文章ですが是非またいらしてください。
遠方(他地方)から来られる方へ
関西人(京都に近い場所の)は皆知ってることですが、
京都は表向き歴史に彩られた素敵な街となってますが、
ディープゾーンやアンダーゾーンが非常に多い街です。
観光地気分で気軽に撮ると怒られる場所も多いので
気をつけて下さい。
地元の方の貴重なご意見ありがとうございます。
光と闇は表裏一体と言いましょうか。
長い歴史を有するということは、色々なことがあるということの裏返しだと思います。
色街を歩くときは、なるべく目立たないように行動するのがコツですね。
花房観音の『楽園』(2014年刊)を読んで、ググったらここにたどり着きました。
大変よく分かりました。ありがとうございます。
ご訪問ありがとうございます!お役に立ててよかったです。
[…] うんとディープな旧五条楽園エリア*にスポットライトが! […]