松山「土橋料亭街」訪問記 ~駅裏の元色街は今~

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まるで存在そのものが都市伝説じみた不確実性に彩られ、それゆえ男たちの探究心を刺激してやまなかった魅惑の色街がかつて松山市にあった。

今さら感と「逆に今どうなってんの?」的な新しさが交錯した空気感の中、期待を背負って放たれるのはもちろん通称『土橋料亭街』、土橋駅裏の青線の話である。

松山市から伊予鉄道で一駅。こんなとこにそんなアングラゾーンがあったことがにわかに信じられないような松山のほぼ中心部に位置している。

かつてはオンボロだったこの土橋駅。2014年に改修工事を終えて今の姿に落ち着いている。

ホームに立つと、防音壁の向こうに建つくすんだ長屋が視界に入ってくる。
そこが件の場所である。防音のためというより目隠しに近いのかもしれない。

“目的地”は線路の反対側なので、回り込むように線路を渡って行く必要がある。
そばに来ると、明らかにそこだけ磁場が歪んでいるような異質なオーラがほとばしっていた。

直感的に思った。
コイツはヤバい…心してかからないとやられる。

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土橋料亭街

松山の色街と言えば、兎にも角にも消えた『ネオン坂』が有名だ。

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初めて足を運んだ2015年、そして二度目の2020年。
一度目、この土橋も当時一応存在は知っていたものの、スケジュールの都合で諦めたため5年越しの訪問となった。

「ちょんの間」とか「青線」とかそんな風に聞いていたので一体どんなところだろうと思っていたが、まさかこれほどの経験値を要求されるとはまったく予想できなかった。

料亭街が面した道路は交通量が多く、まず路地に分け入るためには数多い好奇の視線に晒されることになる。
そして、いざ路地に入ると今度は静寂に支配された世界が待っていた。

気配を殺したい場面なのに自らの足音が致命傷になりかねない。
神経をすり減らすのは必至である。

そして、中ほどまで来るとまるで狙いすましたかのように真ん中だけぽっかりと空き地になっている。
まさに四面楚歌の状況である。

空き地に立つと、無残に崩落した建物が背景の一部であるかのように違和感なく溶け込んでいた。
言わば、それぐらい現実感がごっそりと欠落していた。

極めつけは、奥部にはまだ人が住んでいるのか生活の気配が漂っていた。
どう見ても観光客風情の出で立ちで、こんな時間にこんなところで住人に出くわして一体どんな言い訳が成立するというのだろうか。

完全に無理ゲーである。

そんな極限の緊迫感の中でも迅速に、かつ確実に任務を遂行できる。
長年の経験が培った、生きる上でまったく役に立たないスキルだと思う。

料亭街は、南北に二本並行する路地で構成されており合計で4列ある。

南側の路地の、突き当たりから振り返ってみる。
ここから見える家屋が、かつてはすべてそういう用途に供していたと思うとどこか空恐ろしくもなってくる。

階上の窓から夜な夜な漏れ出る嬌声が、聴覚を通じて男たちを昂ぶらせていたのだろう。
ここには、紛うことなきそんな妖しい日常があった。

この色街は、少なくとも2018年頃までは現役だったと聞く。
もう息絶えたという噂がもっぱらだが、この場所につい2年ちょっと前まで紅い灯が灯っていたというのはさすがに驚きを禁じ得ない。

丸窓の店舗を覗いてみるとカウンターが見えた。
飲食店に扮した営業をしていたのだろう。それはすなわち“特殊飲食店”を意味する。

 

北側の路地に移動すると、こちらにはまだいくつかの屋号が残っていた。
色街の名残りで言えばこちらのほうが雰囲気を良好にとどめていた。

そうは言っても、もうほとんどが廃墟と化しておりあまり先は長くなさそうな感じである。
戦況は芳しくない。

先ほどの崩落寸前の家屋は裏側も同様だった。
こんなものがいつまでも壊されずに残っていることで、ここがどんな場所かは察するに余りある。

こんな駅裏の好立地な場所をデベロッパーがほっとくわけはないだろうから、すべて空き家になるのを手ぐすね引いて待っているのだろう。

来るのがあと数年遅ければリアルにブロックごと消えていたかもしれない。
そんな危うさを纏った土橋料亭街は、見ておきたければ兎に角早めに足を運んでおいたほうがよいと思う。

昼間にここを歩くのは色んな意味で“試されてる感”があるので、ひとつだけエールを送るとしたら…

頑張れ。

以上!

さて、そろそろずらかるか。
申し訳ないけどこんなとこに長居できるほどメンタル強くない。。

 

男たちの欲望を呑み込んできた色街のすぐそばを、今日も人々の生活を運びながら電車は走り過ぎていく。

近い将来、なくなってしまうであろう風景を名残惜しむように。

[訪問日:2020年1月1日]


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