鳩の街が急激に発展したのは、素人やせいぜいセミプロまでの女性が多かったこと、それがマスコミに取り上げられ、さらにカストリ雑誌などでも喧伝されたことによると、『赤線跡を歩く』には記されている。
付け加えるのであれば、お歯黒ドブが流れ蚊も多く、猥雑な私娼窟だった戦前玉の井を知る人であれば、その欠点がすべて取り払われた“新規参入のシマ”に流れるのはやはり必然であったろうと思う。
在りし日の名残
その「赤線跡を歩く」にも載っている、市松模様のタイル貼りが美しいお宅。
近年その数を減らしている鳩の街の代表的な遺構と言える。
おそらく65年ほど経っていると思われるその資材は、少し剥がれているところがあるものの、現在でもその見映えを失っていなかった。
写真で見ると案外感じないが、実際に足を運んでここに立つと、その異質な存在感にただただ圧倒されてしまった。
住宅として今なお使われ続けているが、できることならいつまでのその姿を留めてほしいものである。
そしてもう一軒。
「圧倒的破壊力を持つ」系の遺構となると、おそらくこのタイル貼りツートップが最後の生き残りと言えよう。
毒々しいほどの色彩に、否が応でも視線が吸い込まれる。まるで魔力を秘めたような、妖艶な造形物に見れば見るほど魅了されてしまう。
付近には、今にも崩れそうな壮絶なバラック建築が残っていた。
そう言えばこの鳩の街、女優の木の実ナナの出身地だったりする。筆者にとっての木の実ナナはもっぱらあぶない刑事シリーズで、中学時代にやってた再放送を毎日見てたなぁなんてことをふと思い出した。
当サイトでもたびたび引用させてもらっている『よるの女性街・全国案内版(昭和30年発行)』には、
お昼までノンビリさせてくれるのがこのシマのいいところ
と紹介されているが、急成長した訳をまさしく如実に表した一文だと思う。
もし現代にこの街が残っていたら、窓からスカイツリーを眺めながらノンビリするという贅沢な時間が送れたわけだ。もちろん夜にはライトアップされる。なかなかどうして風流ではないか。
こうしてみるとやっぱりここは墨田区なんだなぁと改めて思う。
こういうとこにはちゃんと「ぬけられます」って書いといてほしいんだけどなw
わずか30分ほどで散策を終えたことが狭いエリアだったことを物語る。
前半の商店街が30分、合計で約1時間。
そこには、単に「古い町並み」で片付けるのが憚られるほどの濃密な空間が残っていた。
残念なのは、商店街も赤線跡も、時間とともに古いものは消え、代わりに新しいものが生まれる。「町並み」というものは、このサイクルの産物であり、帰結に過ぎない。
特に赤線建築は、全国的に見ても近年みるみるその数を減らしている。
興味のある方は・・・一日でも早く訪れることをお勧めします。
[訪問日:2014年7月27日]
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