遠くなった関東。
めっきり来る機会も減ってしまった。
― 本当に自分の生活やアイデンティティがここにあったのだろうか
久しぶりに来ると、そんな不思議な感慨すら漂ってくる。
そこはもう、今の自分にとっては完全に“アウェー”な街だった。
気がつけば3年ぶりとなってしまった神奈川の話は、川崎の「溝の口」から。
南武線の武蔵溝ノ口と東急田園都市線の溝の口が交差するターミナル駅である。
かつて南武線沿線で働いていた筆者が、まったく憶えていないが何かの飲み会で来たことがある街だ。
あれから軽く10年以上は経っているだろう。
抑えられない動揺を悟られぬように、群衆に紛れて駅を出た。
何で知ったか忘れてしまったが、溝の口の駅前にずいぶん香ばしい横丁があると知り、長らく訪問を渇望していた。
溝の口西口商店街
闇市由来の昭和レトロアーケードである。
溝の口は東口が栄えている。
マルイやノクティ(溝の口は俗に「ノクチ」と呼ばれる)などの大型商業施設が集積し、バスロータリーがあるのも東側だ。
対して、西口を降りると雰囲気が一変する。
この街が再開発される前の面影をとどめる風景がそこには残っている。
そんな街角風景のひとつがこの商店街。
レトロ界隈では言わずと知れた有名物件である。
街角スナップを気楽に切り取るノリでやって来たのに、そんな気分とは裏腹になぜか首にはカメラが二台ぶら下がっていた。
傍から見たら完全なガチ勢だった。
しかしこの圧倒的な“昭和力”はどうであろう。
とても渋谷、川崎からともに20分で来れる街の駅前風景とは思えない。
ただただ衝撃的な光景だった。
駅入口のすぐそばと言うこともあり、人の往来はかなり多かった。
開いてる店は八百屋が一軒。帰る頃にはこの玉川堂も営業を始めていた。
他の店舗はシャッターが下りていたが、年の瀬ゆえに実際のところはどうかわからなかった。
三叉路好きにはたまらないY字。溝の口西口商店街の白眉と言えるだろう。
この八百屋の雰囲気などとうに文化遺産レベルを凌駕しているとさえ思う。
三叉路を右手に進むと、反対側の入口に出る。
左手を進むとこちらにも入口がある。
どうやら正式な入口は右手側のようだ。
アーケードにへばりついたバラックが美しすぎて思わずため息が漏れた。
異世界に迷い込んだような溝の口西口商店街だが、長さ的には割と短い。
だがこれには理由がある。
2007年、8軒を失う大火事に見舞われ、一部を失ってしまったのだ。
二枚目の写真で左手に駐輪場が写っていたと思うが、それがそうである。
闇市という出自に足元をすくわれ、再建が叶わなかったそうだ。
こんな酷い話があるだろうか。
さて、この商店街は実は“飲兵衛横丁”としての顔があり、というかイメージの大勢はそちらになるようだ。
昼間は先ほど言った通り駅に向かう人の往来が盛んであるが、夜には数軒ある酒場がオープンし、勤め帰りのサラリーマンで溢れる通りへと変貌を遂げる。
本当は夜に来たかったのだが、こればかりは仕方ない。
今度は是非飲みに来たいと渇望しつつ、淡々とシャッターを切った。
買い替えたばかりのメイン機、D780で撮影。
優秀なカメラとレンズがショボい腕をカバーしてくれる。
レタッチは彩度を若干落としてトーンカーブを調整する程度。
あまり凝ったことはやってない。
やる必要がない、と言ったほうが正しいかもしれない。
玉川堂さんで何か買ったらよかった、と今になってそんなことを思う。
新しいカメラで撮るワクワクもあったけど、それ以上に被写体が魅力的すぎてとにかく撮影が楽しかった。
次は本当に飲みに行きたい。
いつの日か。
[訪問日:2020年12月30日]
コメント
いつも楽しみに拝見しております。
いろはによく通っていました。かとりやは有名過ぎて半ば観光地になっているので避けた方がいいかと。
いろはは線路沿いのカウンターで飲んでいると自転車が背中を掠めながら走り去り、時折南武線が轟音と共に通り過ぎる。あの雑然とした雰囲気が大好きでした。
割ものはタフマンみたいな瓶に焼酎か入っていて、500mlのペットボトルのお茶や烏龍茶で割る。氷も製氷器から勝手に足してました。おすすめです。
ご無沙汰しております!
情報ありがとうございます。いろは、、雰囲気よさそうですね。ここは立ち呑みでしょうか。
かとりやは以前吉田類さんが来たようですね。人気の理由はおそらくこれじゃないかな、と・・