岐阜・国際園を歩く 2019年版 ~最後の皇帝、逝く~

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吹き出した汗をシャツで拭いながら、古い記憶の頁を繰っていた。

真夏の陽炎のようにもやもやとした、おぼろげな記憶。
そこには5年前の日付が記されていた。

―そうか、もう5年も経つのか。

 

闇市から青線へ 岐阜市『国際園』
名古屋・城東園の町並みをしかと見届け、いよいよ舞台は最終章の元中村遊郭、「名楽園」へ・・・ 行かないのが自他共に認めるあまのじゃく人間の真骨頂なわけである。 実はこのとき、諸々の事情があり名楽園には寄...

 

「国際園のランドマークが姿を消した」

そんな報せが飛び込んできたのはちょうど1年ほど前のことだった。

 


―国際園


あの金津園と因縁の関係にあった、旧青線である。


まだ色街を歩き始めて間もなかった頃。
何かに憑かれたように多くの街を訪れ、夢中でシャッターを切った。

今振り返れば、まるで違う世界で生きていたのではないかと思えるほど忘我的な日々だった。完全に正気を失くしていたと思う。


そんな時期に歩いた国際園に再びやって来ると、打ち寄せる波のように懐かしさが胸の中に去来した。

 

何十年もの間、当たり前のようにそこに建っていたものは、駐車場へと姿を変えていた。

大局的に見れば、古い建物がひとつ姿を消しただけの話なのだろう。
だが一方で、その“死”を悼み、大勢の人が間違いなく別れを惜しんだ。

その事実だけで、十分幸せな生涯だったと言い切ってよいのではないだろうか。
少なくとも、自分にはそう思える。

 

『ミカド』よ、安らかに眠れ。

 

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5年の歳月を振り返る

自分がずっと続けてきたものが、わずかでも積み上げた歴史を持っていること。
その部分に思いを馳せるとき、是非はともかくとしてやってきてよかったと思う。

始めた頃は夢物語でしかなかった壮大な未来図も、目先の小さな目標をひとつずつクリアし、辛抱強く愚直に歩き続けたらいつしか手に入れることができた。

努力を怠らなければ、届かないものはないことを知った。

他人から見たら取るに足らない些細なことでも、自分が“こう”と決めたことを続けることにはやはり意味がある。「千里の道も一歩から」である。

何か大きなことを成し遂げようと思ったら、小さな一歩をひたすら積み重ねるしかないことも同時に学んだ。

ただ、順風満帆だったかと言うとそれはまた別の話になってくる。

 

―俺は何でこんなことをやってるんだろう
―いつまで続けるつもりなんだろう

 

少なくとも、人に誉められることをやっているわけではない。

そう自問したことは、一度や二度ではなかった。
健康上の理由から、本気で辞め時を模索した時期もあった。

見えないものに向かうときが、人は一番楽しいと思える。
高い目標ほど、やりがいを感じることができる。

それだけは、身を持って知ることができた。

 

また、達成感や自己満足のようなふわふわしたもの以上に、大きかったものがある。

全国を自分の足で歩き、自分の目で見たと言う経験値。記事に落とし込む過程で色々調べることで、仕事とはまったく無関係な知識がそれなりに身についた。

通り過ぎてきた景色、出会った人々、その記憶のすべてがここには詰まっている。
どれもがかけがえのない自分の財産だ。

ただ、残念ながら載せている写真や書いている文章は、それらの一部に過ぎない。
行間にはもっと多くのドラマやストーリーが隠れている。

振り返れば、結局自分は大したことは何もやっていなかったことにも気づいた。

 

プロ野球の一軍で4割近い打率を残すとか、ハリウッドのトップスターになるとか、そういう特別な能力は必要ない。

時間とお金を費やせば誰にでもできることだし、あとは平凡な写真と平凡な文章だけである。

 

写真を撮るのは好きだけど、文章を書くのはいまだに苦手でいつも時間がかかってしまう。ライターや作家みたいな機知に富んだ文章がすらすら書けるようになりたいと、ずっとそんなことを思っている。

 

特別なものは何もないけど、淡々と、ストイックに続けてきたこと。5年間を一言でまとめるなら、たぶんそんなところではないかと思う。

 

色々なことがあった。

なくなった建物や変わってしまった街並み。

自分の写真や文章も、始めた頃と比べたらずいぶん変わったように思う。

長い間こんなブログを読んで、無駄な時間を過ごしてきた皆さんのおかげでここまでなんとかやってこれたこと。

厳密には開設して5年半ぐらいだけど、5年経った感謝の思いを伝えたくてこんな文章を書かせてもらうことにした。

 

「継続」は難しい。それは、モチベーション云々の話もそうだけど、人間いつどんなライフイベントがあって突然できなくなってしまうかわからない。

これまで、そういう人を何人も見てきた。

なので、できる限りは頑張って続けていきたいと思う。

 

これからも・・なにとぞよろしくお願いします。

 

2020年3月
ベランダの風に春の気配が混ざり始めた自宅にて

 

[訪問日:2019年8月11日]


コメント

  1. より:

    今年から高校三年生になる者です。
    いつも楽しく拝見させて頂いております。
    私は遊郭や花魁などに幼い頃から猛烈に興味があり、暇さえあれば図書館や古本屋に行って調べていました。
    SNSが発達して情報が誰でも簡単に得られるようになったと共に、歴史的な建物や跡は日々消えつつあります。
    ライター様が労力を積んで撮られた1枚1枚の写真や文章は宝になると思います。
    ですのでご無理なさらない程度で続けて頂ければと思います😌

    • machii.narufumi より:

      いつもお読みいただきありがとうございます!
      仰るとおり、私もはじめは消えゆく遊郭・赤線の建物をひと目見たくて今まで各地を訪ねてきました。
      いつか役に立つのかどうかはわかりませんが、まだしばらくは続けるつもりですので安心してください。
      また遊びに来てくださいね。

  2. とこくん より:

    2年ほど前から見ています。
    私にとってこのブログは
    日本に残っている日本らしさ、
    現地現場の匂いが伝わる大変貴重なものです。
    色々と感謝の気持ちを伝えたいのですが
    短くまとめる文章力もないので陳腐な言葉ですみませんが、頑張って?下さい!。
    引き続き日本の知らない世界を見せて下さい。

    • machii.narufumi より:

      いつもありがとうございます。
      こうしてコメントをいただけると、自分の文章も少しは役に立っていたのかと気づかされて今後の励みになります。
      まだやめるつもりはありませんので、また気軽に遊びに来てください。

  3. ザネ子 より:

    実際に旅をした人にしかわからない苦労やハプニング、感動など様々な出来事や思い。その、ほんの一部をブログを通して分けてもらっていることを読者は忘れてはいけませんね。ネット社会なので簡単に情報を手に入れることができますが、それを調べる方々の労力に改めて感謝しなければ・・・と思いました。
    いつもありがとうございます。

    もうひとつ
    時間は何にも代えられない大切なものなので、無駄と思ったら読み続けません。

    今回の記事で、少し引っかかるところがありまして、コメントさせていただきました。
    お伝えしたいことはたくさんありますが、全て書くとめちゃくちゃ長くなるので、ここで終わります。
    またコメントさせてください。

    • machii.narufumi より:

      >時間は何にも代えられない大切なものなので、無駄と思ったら読み続けません。
      ホントそうですね。改めて、応援してくださる皆さんに感謝しなければいけないと思いました。

      ずっと続けてきたことで、私の中でも思うところがあってちょっと自虐的な表現になってしまいました。
      お気を悪くさせてしまいすみません。
      実際、こうしてコメントをいただけることが一番の励みになります。また遊びにいらしてください。
      今後ともよろしくおねがいします。

  4. 黒羊 より:

    情報ありがとうございます。

    噂では知ってましたが、「ミカド」「祇園」「松葉」の3姉妹が遂に、、、来るべきものが来てしまいましたか。。。

    今年の盆休みに、名古屋方面遊郭跡訪問を計画していて、↑の噂の真偽も確認しようかと思っていたのですが。
    国際園は、5年前と2年前に行ってますので、往時の物件を見れただけ良しとしなくてはいけないですね。

    ちなみに、今年の夏の名古屋遠征では、小牧と半田を計画してます。
    このブログの該当記事も参考にさせて貰いますね。

    • machii.narufumi より:

      コメントありがとうございます。
      SNS等では、今じゃもう駐車場になった写真のほうが多くみかけるようになりました(涙)
      往時を知る人には結構堪える光景だと思います。

      真夏の暑さはまち歩きにはだいぶキツイので、無理せずに楽しんでくださいね。

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