青空と多島美に癒やされるはずの瀬戸内で雨に降られると、どうにも損した気分になってしまう。
これがゲームだったら、手が滑ったフリをしてリセットボタンを押すところである。
やり直しが利かないのが人生の不自由なところであり、この“ままならなさ”があるからこそ面白くもあるのだろうと思う。
鈍色の空から規則的なリズムで落ちる雨粒が、路面を濡らしていた。
風が強くないのが不幸中の幸いだったが、こんな日に島旅をすることになってしまった自分の運のなさを嗤いながら高松港から赤いフェリーに乗り込んだ。
わずか20分の船旅。
「めおん2」と船体に書かれたその船の行き先は、高松沖に浮かぶ「女木島(めぎじま)」である。
鬼ヶ島伝説の残る島
高松沖約4kmに浮かぶ女木島。
島の中央にある鷲ヶ峰に巨大な洞窟があり、その昔鬼が住んでいたという伝承から「鬼ヶ島」と呼ばれる島である。
島の玄関口には、イースター島よろしく集落を見守る巨大なモアイ像が立っている。
かつて、高松市内のクレーン会社がイースター島で倒れたモアイを善意で元通りにするというプロジェクトを行ったそうで、そのときに実証実験で作ったのがこのモアイ像。
のちに市に寄贈され、おそらく市も扱いに困ったのではないだろうか 女木島に設置されたんだとか。
船が島に近づくと、まるで城郭かと見紛うような巨大な石垣が立ち並んでいるのが目につく。
これは「オーテ」と呼ばれるもので、強い季節風から民家や集落を守る、防潮・防風・防波堤の役割を果たす女木島特有の景観である。
集落を歩く
主要な観光スポットとしては、ここまで挙げた大洞窟、モアイ像、そしてオーテ。このあたりになるようだ。
筆者の目的は町並みを見ることなので、早々に集落内部へと分け入ることにした。
女木島の集落は山を挟んで島の東側と西側に分かれており、それぞれ「東浦」「西浦」と呼ばれている。
縦に長い女木島だが、地形的にはほぼ山である。
反対側の西浦へは、正面に見える山並みを越えなければならないのではなから行く気はなかった。
集落の規模的にも大部分の家が女木港のある東浦に集中しているので、正味ここだけ歩けば十分だろうと思う。
建物は木造の平屋が多く、ほとんどが古い家である。
時折、石垣で囲まれた家を見かけたが、これもやはり強風対策なのだろうか。
そうそう、このイラスト見て思い出したんだけど。
以前直島の記事でちょっとだけ触れた「瀬戸内国際芸術祭」。
ここ女木島でもいくつかの作品がお目にかかれるので、瀬戸芸目当てで来島する人もそれなりにいる気がする。
女木島の猫事情
女木島には猫がそこそこ生息しているそうだが、この日は雨のせいかまったく出会えなかった。
「BONにゃん」というNPO法人が、島猫が殖えすぎないように餌場の管理や去勢手術に取り組んでいるようだ。
観光客が餌付けすることで急激に数が増えた過去があるとかで、観光で来てる猫好きの身としてはどうにも複雑な感情を抱いてしまう。
引き続き、東浦の集落を歩いて行こう。
雨は一向に止む気配がない。終日雨中の散策になることは覚悟していた。
名画座
突如、周囲の景観にあまりにも不似合いな色彩をまとった構造物が現れた。
『女木島名画座』である。
使われていなかった空き倉庫を、アーティストが映画館として蘇らせたという興味深いストーリーを持っている。
内装は結構ポップな感じらしく、開いてれば入ってみたかったけど残念ながら叶わず。
ところで、女木島はどういう島かという話をちょっとしてみようと思う。
集落を歩くと、離島にしては結構農地が多いなぁという印象を受ける。
女木島は漁業がそこまで盛んではなく、いわゆる半農半漁の島のようだ。
平地が少ないので、山の斜面を利用して畑を設け、えんどう豆や落花生、にんにく、柑橘類などを栽培しているとのことだ。
人口はおよそ130人。
過疎化と高齢化の波に洗われ、空き家も徐々に増加している。
それは集落を歩いてみてもよくわかった。
離島はどこも厳しいよね、やっぱり…。
夏は海水浴客で賑わうビーチもオフシーズンはひっそりと静まり返っていた。
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