福島県南会津町にある前沢集落は、平成23(2011)年に重要伝統的建造物群保存地区に選定された山村集落。
農耕馬とともに暮らした「曲家(まがりや)」と呼ばれる独特な茅葺き民家が多数残り、それゆえ『前沢曲家集落』と呼ばれることが多いこの集落を訪ねた。
前沢曲家集落があるのは南会津町の舘岩という地区で、最寄り駅から車で30分。
栃木との県境にも近い、山深い場所にある。
同じ南会津(南会津郡下郷町)でともに茅葺きが見られる大内宿とはなんか似たような印象を受けるが、知名度、観光客数ともに雲泥の差があるし何よりこちらはあまりに雪深くて冬季は閉鎖となる。
ちなみに前沢の基本スペックは標高670m、冬の平均気温は氷点下、積雪量は1.5mの豪雪地帯。
ちょっと観光でも、みたいな軽いノリで行けるような場所ではない。
筆者が訪れたのは10月の最終日。
あと半月もすれば今年の観光シーズンを終えようかと言う、紅葉がまさに見頃の素晴らしい時期だった。
300円の入場料(いわゆる維持管理の協力金のようなやつ)を払い、徒歩で集落内へと向かった。
集落はこの舘岩川の西岸の緩斜面に位置し、沢(川)の前にあったことが「前沢」の由縁となったそうだ。
前沢集落の歴史
前沢曲家集落は戦国時代の16世紀終わり、横田城主・山内氏勝の家臣、小勝入道沢西が移り住んだことから始まったと言われる、会津武士が拓いた集落。
明治40(1907)年に全戸を焼失する大火に見舞われ、その際に同一の大工集団によって一斉に再建された為に統一的な景観が誕生し、現在までその姿を忠実に保っている。
建物的には100年ちょっとだが、そのような背景もあって整然とした町並みを形成している。
曲家とは
さて、ここの特徴にもなっている曲家(まがりや)とは一体何なのか。
このような、上から見るとL字型をしている民家を「曲家」と呼ぶ。
「中門造り」とも呼ばれるこの建築様式。間取りを見るとそこには雪国で生きる知恵が詰まっていた。
豪雪地帯ゆえ、馬屋が外にあると世話をしに行くたびに雪かきをしないといけないのでそれはさすがにめんどくさい。
じゃあもう同じ屋根の下に馬と一緒に住んだらいいじゃん、となってこういう形態になった。
さすがに今ではもう農業に馬を使うことはなくなったが、そんなわけで前沢集落には現在主屋23棟のうち13棟が曲家となっている。
そんな曲家の内部を見学できるのが集落の手前のほうにある曲家資料館。
正面の突出部を厩(うまや)に使用し、土間の通路が奥に向かって伸びる。
奥が「したえん」と呼ばれる空間で、囲炉裏を囲んだ家族団らんの場となっていたようだ。
囲炉裏には実際に火を入れてくれるというちょっとした演出が憎い。
したえんの隣が「うわえん」。
応接間のような用途に供されていたようで、畳を上げて養蚕にも使われたとか。
ん?なんか黒い物体が落ちとる・・
あ、どうも・・熊さんでしたか。
立派な敷物ですね。(なお本物です)
いや・・めっちゃ気になるんだけど(笑)
うわえんの奥の間が「ざしき」。
儀式や寄り合いに使用されたそうで、床の間と仏壇が見られた。
そして最も奥まった場所にあるのが「へや」。
世帯主夫婦の寝室に使われていたそうだ。
開口部が少ない部屋で、かつ冬の寒さをしのぐ為に南側に配置されている。
建物の向きにしても気候を意識した配置になっているのは、雪国ならではの工夫と言えるだろう。
外の様子はこんな感じ。
蔵が曲家に隣り合って建てられていた。
(2ページ目へ続く)
コメント